正月ごしらえ
私たちの先祖が「正月が来る」といったのは、単に一月一日になるという意味や年が改まるというだけではなかった。「正月さん」、それは、歳徳神とも呼ぶ神様が来られて、みんなに一つずつ年を配られる。配られた年をいただいた者は、若水で沸かしたお茶を飲み不思議な霊力を持つ正月餅を食うと、新しい生命と力が与えられると信じていた。
この信仰は、『年を取って若返りなさい』というのが正月のあいさつである。
正月がめでたく楽しいのは、正月さんが来られて、いろいろな「おかげ」を下さるからで、そのありがたい神様をお迎えする準備が「正月ごしらえ」である。
正月ごしらえの大事なこと
「恵方」ということばがある。
恵方は「あき方」ともいい、正月さんのおいでになる方角であり、正月さん迎えも、若水を汲むにも、初山入り(伐りぞめ)も、正月行事すべては恵方を向いて行うのである。
餅つき
「大昔の事です。ある大臣が、餅を的にして弓を引きました。矢が、ねらいたがわず餅のまん中に当たったかと思うと、アラ不思議、餅は白い鳥になって、パッと飛び立ってゆきました。」
餅には特別ね霊力があり、これを食うことによって、新しい生命と力が与えられると信じられていた時代に作られたものであるという。
正月や節句には必ず餅をつき、めでたいことにも、不吉なことにも餅を贈答し、土用になれば「はらわた餅」を食う。
伊勢参りではアカフクを、宮津の文殊さんでは知恵の餅をみやげに買うのは、私たちに祖先の血が流れており、その信仰の面影が残っているからではあるまいか。
門松立て
門松たては三十一日、しめ縄を張るのは、盆以後半年間の貸借の清算がすみ、「かけ取り」が来なくなってから、という家が多い。
門松はいつ頃から
門松の起源は、ずっと昔にさかのぼるが、民俗は、人間の生活習慣である。
「昔は門松を立てないで、家の中の柱か、土間にすえたつき臼に、マツなどの常緑樹を立て、これを正月様としておがんだ(おがみ松という)が、いつの頃からか、これが戸外に出されて門松になったのである」といっている。
年越し行事
年越し行事は、迎えどんど、年越しほだ(大とし火)、俵かたげ(子方の年末のあいさつ)、箸おさめ(年越しそば、年忘れ)などである。
迎えどんど
迎えどんどは、正月さんに、「すっかり用意ができました。早くおいでください」と知らせるもので、お客さんの時分使いである。
村をまわって、各戸から3~8把11束のワラをもらってくる。根元を拡げて円錐形に立てる。これにワラを入れ、ワラをからませて夕方になるのを待ち、一のくらみ(たそがれ時)になって火をつけ「迎えどんど」をする。
おせち料理
年の夜、男が神祭りやほうらい盆を作る間に、女は正月のおせち料理を作る。それは、元日に女が休みたいのではなく、食事の一切を年男がすること、伐りぞめがすむまでは、鋏、包丁など一切の切れ物は使われないからである。
「年越しそばを食うと、小遣い銭に不自由しない」
俵かたげ(年末のあいさつ)
年越しの夜、親方さんに集まった『子方』や『出入り』が、掃除や神祭りを手伝い、その後で酒食のもてなしがある。この時の食品は、丸い握り飯を焼き、山椒みそ、ごまみそをつけたものである。
年越し最後の食事。
元旦
元旦には、(初詣)に始まり、年男の若水汲みと年とり準備、家内揃っての年取り行事、年始まわりなどがあり、家によっては、早くも伐りぞめ、はきぞめなどをする。
お宮参り
元旦のお宮参りは、「一の庭を踏むとよいことがある」といって、早く参る事を競う風があり、除夜の鐘がなり始めると出発する家もあり、それよりも早く、頃合を見計らって出かける家もある。
元旦のお宮参りには、平素と違った作法があった。
被服を改めること。正月げたとも言われる新しい高下駄をはく。
お賽銭のほかに、三方さんのトビをお供えする。お神酒、鏡餅などを持って詣る例も各地にあり。
年男の任務は、正月三日間は、年男が炊事をする。
ことはじめ
ことはじめは、「仕事はじめ」であり、けいこはじめで、二日にする例が多い。
元旦の年玉で、人も道具も若返り新生したから、二日には、その新しい命を生かして、新しい生産、新しい修業の出発を祝うのであろう。
なお、仕事のはじめを四日とする例も多い。それは、正月三日間はハレの日であり忌みごもりの日とし、四日から仕事をはじめるのが古い習わしであったかも知れない。
雑炊はじめは七日正月。
おかゆのたきぞめは十五日正月。
箸のつくりぞめは十四日である。
初 夢
初風呂は二日、洗濯はじめは四日とする例が多い
正月二日の夜見るのが初夢で、夢にも良し悪しがあって、「一富士ニたか三ナスビ」といって、富士山の夢を見ると一番よいといわれる。
蒔きぞめ
正月十一日に「蒔きぞめ」という種まき行事を行う。
「畑を耕して五本の畦を作り、ユズリハとカエ(カヤ)の木を立て、一升マスに入れた麻の種と灰を混ぜたものを蒔く。これは、”今年蒔く種が そろってよい芽を出しますように”とお祈りする行事で、東を向いておこなう」
庭田植
「十五日の朝、あずき粥を食べた後で、その箸を、各自が灰箱の中の灰にさす」
稲木おろし、稲こき
年おろしは十一日。この日、神棚の花木、しめ縄、お供え物を取り下げるが、特に、餅花をおろすことを「稲木おろし」といい、餅花の餅を取り外す事を「稲こき」という。
稲こきをして得た餅を、神棚に供えるというが、初穂を供える意であろう。
はま弓、はご板
初めて正月を迎える長男には「はま弓」を、長女には「はご板」を祝う。
その子の健やかな成長を願い、その前祝として、その子のおもちゃを贈るのである。
七日正月からどんどまで
七日正月は、昔の正月(満月の十五日)を迎えるための、忌みごもりに入る日で、盆では七日盆にあたる日であるが、その面影を発見していない。また、どんどが早くなって、この日に門松を取り片付ける例はある。
今日、但馬の七日正月は、「雑炊はじめ」とも言われるように、朝早く七草をきざんで雑炊をつくり、餅を入れて食うにすぎない。
七草は、セリ、ナズナ、ゴキョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロの七くさ(種)である。
どんど
どんどは十四日昼の行事で、家々の神棚に供えていた花木(カヤ、松、しめなわ)などを集めて焼く。お宮の花木も加える。また三方さんの餅をあぶって、十五日のあずき粥の柱とする。
どんどの目的=どんどは、正月様を送る行事である。「神は煙にのって去来する」という。
どんどの火
どんどの火には、特別な霊力があって、その火に温まるだけで健康になる、厄病の予防になる、頭痛、腹痛は治る、一年間の災難をのがれる。
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